「マークシティの上、カスタードの午後」
日曜の渋谷。
スクランブル交差点の喧騒を抜けて、
マークシティのエスカレーターを上がる。
少しずつ、音が変わる。
地上のざわめきが遠ざかって、
空気がやわらかくなる。
渋谷エクセルホテル。
その中にある、エスタシオンカフェ。
ホテルのカフェには、独特の余裕がある。
急がない。
声が大きくない。
時間が、ちゃんと流れている。
ショーケースの中に、
あいつはいる。
エスタシオンカフェのシュークリーム。
見た目からして、潔い。
クリーム、盛りすぎだろ。
そう言いたくなる量。
はみ出している。
遠慮という文化を知らない。
いい。
日曜なんだから、これくらいでいい。
テーブルに置くと、ずしりとした存在感。
軽やかなホテルスイーツではない。
むしろ、真逆だ。
持ち上げる。
重い。
この店のシューは、
“軽さ”より“密度”。
ひとくち。
……ああ。
カスタードが、ちゃんと主役だ。
濃い。
とろとろというより、なめらかに粘度がある。
卵黄のコクが前に出て、
甘さは丸い。
カスタードは、卵・牛乳・砂糖。
材料は驚くほど少ない。
でも、火加減ひとつで台無しになる。
弱すぎれば、ゆるい。
強すぎれば、もったり重い。
ちょうどいい“とろみ”を出すには、
絶妙な温度管理がいる。
ホテルのカフェで出すカスタードは、
ごまかせない。
エスタシオンのそれは、
ちゃんと丁寧だ。
シュー皮は、やや厚め。
シュー生地は、焼くときに一気に水分が蒸発して
中が空洞になる。
あの空洞は、
“クリームを受け止めるための構造”だ。
だから、この量が入る。
二口目。
粉砂糖がぽろりと落ちる。
窓の外に見える渋谷は、
いつもより少し静かだ。
ホテルの上階というだけで、
街の喧騒が遠景になる。
日曜の午後に甘いものを食べると、
不思議と許された気持ちになる。
明日が来ることを知っているからだろうか。
それとも、
この高さがそうさせるのか。
最後の一口。
クリームが、名残惜しく残る。
指でさらう。
静かだ。
満ちる、というのは
こういうことかもしれない。
渋谷の真上で、
カスタードに包まれる。
派手じゃない。
でも、ちゃんと贅沢。
マークシティの上の、
日曜の午後。
この密度が、ちょうどいい。
量を求めず。密度を求めていこう。 |